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中西忍

進化思考ー生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」

Updated: Jul 22, 2021

[Art & Culinary] [Economy] [Science & Technology]

著者:太刀川英輔

出版社:英治出版

出版年月日:2021年4月21日


レビュー


 1日の終わりに、目を瞑り眠りにつくとき、子どもの頃から宇宙におもいを馳せる。宇宙はどのように始まり、どこまでの存在なのか、自分の命はどこから来て、どこに行ってしまうのか、そんな自分の知識では答えようもないことを想像し、恐怖に駆られるときもあれば、ふと解き放たれたような感覚になったりしながら、いつの間に眠りについて朝を迎える。

 自然は、人間にとって未だよくわからない存在。私たちは、そのよく分からない存在を、もっぱら自然科学研究者に任せているわけですが、この本はグラフィックデザイナーである太刀川英輔さんが、自然科学から、その中でも生物進化から読み解いた「創造性とは何か」を考えたものです。

 昨春、隠岐島海士町を拠点に活躍する阿部裕志さんから、新しく出版社をつくって、本を出版することになった、と連絡が入りました。最初の出版書は「進化思考」。著者は社会と向き合うデザインを追求しているNosignerの太刀川英輔さん。「変異によって偶発的に無数のアイデアが生まれ、それらのアイデアが適応によって自律的に自然選択されていく。変異と適応を何度も往復することで、変化や淘汰に生き残るコンセプトが産まれる。その結果、本質的な願いを具現化するイノベーションを起こせるようになる。」というのが、この本の骨子です。その阿部さんと太刀川さんから、この本を出版するにあたり、是非、話したい人がいる、と言われました。その人とは日本未来館の元館長毛利衛さんです。早速、毛利さんに事情を説明し、彼らと話す機会をつくることにしました。毛利さんは未来館開館前に、「ユニバソロジー」という概念を提唱し、自然界と人間社会との対比しながら、そもそも人間は地球の一部であり、生物の一部に過ぎない、非人間中心的な思考で、持続可能な社会のあり方を追求するために、未来館を20年間牽引し、自分自身もその活動を共にしてきました。そこには「進化思考」の基盤となる考えが不思議と一致しています。この会合は大変盛り上がり、今後、このコンセプトで様々な企画をつくり出そうと思います。

もう一人、類似したことを提唱している人が身近にいます。今年7月に開幕した東京ビエンナーレ2020/2021の総合ディレクターの中村政人さんです。彼は「寛容と批評」を掲げて、民間のアートセンター3331 Arts Chiyodaを、外神田に設立し、今年で10年目を迎えています。その10年を機に、都心北東エリアを舞台とした東京ビエンナーレ開催に打って出ました。彼がいう「寛容」とは、芸術が持っている「とりあえずやってみよう」ということを受け入れる寛容性。「批評」とは、その結果をしっかり議論し、行ったことの意味を考える批評性のことを言っているわけです。これは人間社会における「アートなるもの」が如何に生まれてくるか、について言及しているのですが、よく考えてみると、太刀川さんがいう「変異と適応」と同じことを言っています。

 科学技術、デザイン、アート界を代表する人たちが、奇しくも同じことをそれぞれのアプローチで行っていることがとてもおもしろく感じます。

 太刀川さんが示す、生物の進化を紐解きながら、私たちが持つ「クリエイティビティ」を人間特有のものとして考えず、そもそも生物の進化に組み込まれたプログラムである、と展開する論考は痛快であり、前例のないことに挑戦しようとする人たちに大きな勇気を与えてくれます。是非、ご一読を。

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