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  • 宮田龍

テクノロジーが食を通じたコミュケーションを変えていく − SFと科学技術からみる食の未来像

Updated: Sep 10, 2021

[Science & Technology]

■食卓はリアルで囲みたい?


新型コロナウイルスの影響により、この1年、社会は大きく変わりました。なかでも、食事、特にだれかと一緒に食卓を囲むという機会が大きく減ったのではないでしょうか。一時期Zoomなどのオンラインコミュニケーションサービスを利用したオンライン飲み会も流行りましたが、同じ料理を食べながら「この料理美味しいね!」「こっちも食べてみる?」といった料理やお酒の味を共有してのコミュニケーションとは少し違う気もします。今後、感染症が落ち着いた暁には、また以前のようにリアルで人と食卓を囲む日々が戻ってくるとは思いますが、オンライン越しの食卓はこれからもずっと何か物足りないままなのでしょうか。



■味覚の共有でできる未来を描いた作品『Her Tastes』


ここで、未来の食卓の可能性を感じさせてくれるSF漫画を紹介します。「新たな人間性・未来社会・未来都市」をテーマに様々な分野の人が参加した2019年国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshimaのプレイベント、マンガミライハッカソンで見事大賞に輝いた作品『Her Tastes』です。「カミカミ」という人同士が、食べた食べ物の味覚情報をシェアできるオーラルデバイスが織りなす食を通した人間模様が描かれています。


<作品概要>

味覚情報をシェアできるオーラルデバイスが普及した近未来、「距離」があっても母と食卓を共にしてしまうマザコン男子の恋のゆくえは?(HPより)


この漫画は以下のホームページで読めますのでみなさんぜひ読んでみてください!


人の食べたもの味を自分の口の中で再現して共有ができるデバイス…。作品の中ではまるでインスタグラムで写真をシェアするかのように、味覚を共有しているかのように描かれています。確かにいろんな国中の人とつながると世界中の味が楽しめるかもしれないと思うと個人的には興味がありますし、これを使ったZoom飲みは盛り上がりそうな気もしますが、使い始めるまでのハードルが高そうです。皆さんは試してみたいですか?

実はこの「カミカミ」につながるかもしれない味を再現するデバイスの研究が現在すでに進んでいます。まずはその研究を紹介する前に、人間がどうやって味を感じているのかについて簡単に説明します。


■人はどうやって味を感じているの?


人の口の中には、舌をはじめ、咽喉頭部や軟膏蓋などに味蕾と呼ばれる味を感じるセンサーのようなものがあります。成人の場合、5000~9000個の味蕾があると言われており、この味蕾の一つ一つは、更に30~70個ほどの味細胞と呼ばれるもので構成されています。食べ物を口にいれて咀嚼したときに、グルタミン酸や糖類、塩化ナトリウムなど様々な味を生じさせる味物質と呼ばれる化学物質が食べ物から溢れ出て、その物質を味蕾にある味細胞が接触し、化学反応が起きたときに、味細胞から神経を通してそれが脳に伝わり、いろんな味として認識することになるのです。甘味、塩味、酸味、苦味、うま味などのうち、どの味を感じるかは食べ物に含まれている味物質の種類やその組み合わせによって変わってきます。

味蕾の略図

■味を感じる仕組みデバイスにした「味覚ディスプレイ」


上で説明したようなメカニズムで私たちは食べ物の味を感じているわけですが、その仕組みを使って好きな味を再現するデバイスの研究開発をしている人たちがいます。明治大学 総合数理学部先端メディアサイエンス学科宮下芳明教授です。宮下教授らが開発しているNorimaki Synthesizer(のりまきシンセサイザー)は電気の力を使って普段食べ物を通して感じている味を再現しようとしています。

味を再現するデバイス「Norimaki Synthesizer」(提供:明治大学宮下研究室)

名前の通り海苔巻きのような形をしているNorimaki Synthesizerの先端にはそれぞれ甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を感じさせるイオン(電解質)を含んだゲルがついています。ここに電圧をかけることによって、中に入っているイオンが移動して舌に伝わる味の量の増減させることができます。例えば下の図のようにNa⁺(ナトリウムイオン)を舌の接触しているところに多く移動していくようにすると、私たちは舌の上にある味蕾がそれをキャッチして食べ物を食べた時のように「しょっぱい」という反応になり脳に伝わります。

味が伝わるイメージ(提供:明治大学 宮下研究室)

Norimaki Synthesizerについては、こちらのYouTube動画で詳細の説明をご視聴いただけます。

また、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味を組み合わせることによって、甘じょっぱいなど、いろんな味を再現することも可能だということです。この研究開発が進んでいくと、テレビやSNSを見ながら、そこに表示されている食べ物の味をNorimaki Synthesizerで味わう。なんて日常がやってくるもしれません。


■共有できるものが増えていく未来の中で


いかかでしょうか。Norimaki Synthesizerのような味を再現することができるテクノロジーの研究開発が進んでいくと、『Her Tastes』の「カミカミ」とまではいかなくてもSNS感覚で味がコンテンツとして共有できる日も技術的には遠くない気がしてきました。そうなれば、遠隔での食卓も今より誰かとつながっている感が増すと感じる人もいるのではないでしょうか。もしかしたら、今では思いつかない、味覚をつかったもっと新しい楽しみ方も開発されるかもしれませんね。もちろん、食卓を囲むが意味するところは、味の共有だけではありません。食べ物一つとっても匂いや食感、盛り付けの見た目、料理の温度変化の過程まで、いろんな要素を私たちは共有しています。さらには、その場の空間にいる人が醸し出す雰囲気、空間そのもの印象まで含めて食卓を構成する要素は多岐に渡ります。その中で、あなたが食卓を囲んでのコミュニケーションで大事にしていることはなんでしょうか。改めて考えてみると、次の誰かとの食事がもっと豊かになりそうですね。

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