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綾塚達郎

年間で約150品種の野菜を生産!?そのヒミツは直売所にあり~高梨農園の野菜(前編)~ 

Updated: Aug 20, 2021

[Agriculture] [Art & Culinary] [Economy] [Region]

薄皮でシャクシャクとした爽快な歯ごたえや、しっかりとした風味を楽しめる「四葉キュウリ」(すうようきゅうり)。漬物や炒め物にも活躍する。都会のスーパーではなかなかお目にかかれない食味に優れたキュウリだ。

四葉キュウリ。ほかのキュウリと比べ、イボやブルーム(表面の白い粉)が目立つ(2021年6月7日撮影)

普段の生活で四葉キュウリに出会えないのには訳がある。まず、イボの部分が傷つきやすく、流通や保存、加工に手間がかかる。また、ブルーム(表面の白い粉)が農薬と間違われ、消費者に敬遠されることがある。思い返せば、私たちにとってなじみのあるキュウリの姿は表面がツルツルなものが多い。


例えばこの四葉キュウリのように、私たちの手元に届くまでに知らずしらず脱落していった美味しい野菜がたくさんある。


「美味しいものを美味しい時期に食べてもらいたい」


このように話すのは、2人の妹と一緒に畑作と直売所経営を行う高梨雅人さんだ。高梨さんは、一般的なスーパーにはあまり置いていない品種の野菜を多く取り扱っている。冒頭で紹介した四葉キュウリだけでなく、年間でなんと約150品種の野菜を育てている。

高梨雅人さん。四葉キュウリはじめ数品種のキュウリが栽培されているハウス内にて(2021年6月7日撮影)
高梨農場直売所。旬の野菜が多く並ぶ。三浦海岸駅から三崎口駅行きの京急バスに乗り換え、バス停「半次」下車後、徒歩3分。神奈川県三浦市初声町下宮田303番地(2021年6月7日撮影)

ここまで多くの品種を扱うようになった大きな理由が直売所経営にある。まず、直売所は小規模であるため、スーパーと比べると1日に来るお客様の人数が少ない。単一品種の野菜を大量に扱うには不向きだ。直売所経営を始めた1992年当初、同じ品種の野菜をたくさん置いてしまい、売り切れないこともあったそうだ。また、買い物の便利さについていえば生活必需品が一度にそろうスーパーにはかなわない。ふつうは手に入らない美味しい野菜を置き、差別化を図る必要もあった。こうした背景から、扱う品種の数が少しずつ増えていった。

スイスチャード。筆者の近所のスーパーではあまり見かけない野菜だ(2021年6月7日撮影)

「縁日で小銭握りしめて駄菓子を買うわくわく感のような感じはあるかもしれませんね」


今日はどんな野菜に出会えるか、行ってみるまでわからない。まるで野菜のびっくり箱のような直売所だ。また、今晩のおかずのレシピに困っている方にもぜひおすすめしたい。新しい野菜に出会うとメニューが自然と決まる。さらに、野菜そのものが美味しいため、シンプルな調理で立派な一品となるのもありがたい。

珍しい野菜に出会う楽しさと、今晩のおかずのメニューが決まる便利さが嬉しい(2021年6月7日撮影)

直売所には美味しい旬の野菜を求めて、料理好きの方やプロの料理人も多く来店するそうだ。欲しい野菜の特徴や新しいメニューの相談が直売所で行われることもしばしばある。


「たとえばイタリアン料理にしても、地域によって使う野菜は違ってきます」


イタリアン、フレンチ、中華…。相談の内容も様々だ。そして、こうした期待に応えることも新しい品種への挑戦につながっている。


料理好きや料理人にも嬉しいバジル類やトウガラシ類も季節に合わせて取り扱っている(2021年6月7日撮影)

野菜の生産者と消費者が直接顔を合わせ、野菜についての情報交換が行われ、それによって育てる野菜も変わっていく。都会の生活ではなかなか経験することができない、生産と消費がダイナミックに変わっていく面白さがここにある。もちろん、安定した品質の野菜が安く手に入る現代の生産・流通体制を否定することはできない。ただ、もし欲を言うことが許されるならば、こうした直売所の魅力ももっと身近に感じていたいと思わされた。


そこまで遠くない場所へのお出かけと美味しい野菜との出会い。そうした小旅行をお求めの方はぜひ、三浦半島の景色を楽しみながら、高梨農場・直売所を訪れてみるのはどうだろうか。



後編につづく


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