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  • 伊達雄亮

テクノロジー・地域・グローバル経済~冷凍技術から食文化を考える~

Updated: Sep 10, 2021

[Region] [Science & Technology]


地域における食文化は、発酵、塩漬け、天日干しなど”食品保存技術”の発展に深く関わっている。

例えば、海に囲まれた地域では鮮度が落ちやすい漁獲物の保存手段として、魚を干して保存性を高める干物の技術が発達した。それは同時に魚の持つ旨味を引き出す手段でもあった。


このように、食品保存技術は“食べれる状態で保存”すること“と“味の変化を楽しむ”ことの二つが混じり合いながら発展してきた。しかし、産業革命以降の急速な工学の発展により保存技術の役割が変容している。ポイントは、鮮度そのままに食材を遠方に届ける冷凍技術の発展とそれに立脚した流通の変化だ。


例えば、島根県の離島 海士町 (あまちょう)でとれたブランド生牡蠣や、白いかのお造りを東京神楽坂で楽しめる。海士町観光協会が運営する離島キッチンだ。鮮度そのままに食材を保存する冷凍技術の発展は、東京という食の一大消費地に離島の食文化を集約して体験するという新たな食の在り方を切り開いた。

離島キッチン神楽坂店で頂いた冷凍技術CASを用いた、新鮮な海の幸。筆者も大変美味しく頂きました。

冷凍技術の最先端はどうなっているのか?科学の視点でひも解いていきたい。


■冷凍すると鮮度が落ちる、なぜ?

マグロを例に考えて見る。マグロの体は、下の図のように米粒の1/100以下の大きさの細胞が集まって成り立っている。この中に、米粒の1/100000以下のサイズの様々な旨味成分が、細胞膜の中に閉じ込められている。

この細胞膜を壊さずに中の旨味成分を閉じ込めたまま水分を凍らせることが肝だが、食材の外側から冷やすときの温度差に耐えられず、細胞が壊れてしまう。これが鮮度の低下に繋がる。この技術課題解決に大きく貢献したのが、株式会社アビーによるCASシステムだ。

磁場をかけながら、水分子が集まり、細胞を壊すことを防ぐこの技術では、水分子の凝集による細胞膜の破壊を抑えることができる。つまり、細胞の中に旨味成分を閉じ込めた状態で食材を保存することが可能になった。

実際に、マグロを凍らせた後解凍した細胞の様子を電子顕微鏡で観察した結果が下図。CASでは、細胞の形が保存されている様子が確認できる。

冷凍のテクノロジーが発展し、文字通り、“遠くの食材を鮮度そのままに”楽しめるようになったとき、地域に足を運んで楽しむものだった“地域の食”の在り方はどう変わるのか?

一大消費地である、東京をはじめとする “都市”の文化に合わせた“地域の食文化”が発展するのか、これまでとは違った形の地域の食の在り方が深化していくのか。


筆者は地域に訪れ、その土地の風土とともに食文化を楽しむことが好きだ。その楽しみには、食をきっかけに起こる地域のひととの交流も含まれている。地産地消にはこういった地域とのつながりを楽しむ側面も含まれている。


“冷凍”というテクノロジーは、あらゆる場所でグローバルに食材を楽しむ可能性を拓く反面、地域に根差した食文化の醸成への影響や、地産地消によるサステナブルな地域の在り方と逆行する部分がある。この便利なツールの使い方を科学技術の領域を超えて考える必要があるのではないか。


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